名古屋地方裁判所 平成4年(わ)1281号 判決 1992年11月26日
国籍
韓国(全羅南道務安郡一老邑義山里五五九番地の八)
住居
愛知県海部郡蟹江町源氏三丁目一二番地
会社役員
三井勝義こと 鄭勝義
一九四七年一二月六日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官濱﨑一出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金一七〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、愛知県海部郡蟹江町源氏三丁目一二番地に居住し、名古屋市中川区富田町大字江松二一八二番地の一ほか二か所において、三井工業、丸三鋼業等の名称で保安器材製造・販売・鋼材加工・販売等の事業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、所得税の確定申告に際し、所得金額に関する正当な収支計算をせず、適宜の過少な所得金額を計上するなどの方法により
第一 昭和六三年分の実際総所得金額が四二六三万三九七一円であつた(別紙一修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成元年三月一三日、名古屋市中川区尾頭橋一丁目七番一九号所在の所轄中川税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が六〇〇万円で、これに対する所得税額が四六万七〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一六三〇万一五〇〇円と右申告税額との差額一五八三万四五〇〇円(別紙二脱税額計算書参照)を免れ
第二 平成元年分の実際総所得金額五六七七万四六六三円であった(別紙三修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成二年三月一二日、前記中川税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が六〇〇万円で、これに対する所得税額が四一万円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二三二二万九五〇〇円と右申告税額との差額二二八一万九五〇〇円(別紙四脱税額計算書参照)を免れ
第三 平成二年分の実際総所得金額が六五七五万四八六九円であった(別紙五修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成三年二月二八日、前記中川税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が六〇〇万円で、これに対する所得税額が四一万円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正行為により、同年分の正規の所得税額二七七一万九五〇〇円と右申告税額との差額二七三〇万九五〇〇円(別紙六脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(二通)
一 三井勝男こと鄭勝男、三井勝美こと鄭勝美、三井淳子こと尹淳子及び山本茂こと劉茂の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の査察官調査書(売上等について・記録証第352号、特に修正損益計算書の勘定科目の<1>売上につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(たな卸について・記録証第353号、特に前記科目の<2>期首商品棚卸高、<4>期末商品棚卸高につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(仕入等について・記録証第354号、特に前記科目の<3>仕入につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(租税公課について・記録証第355号、特に前記科目の<5>租税公課につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(荷造運賃等について・記録証第356号、特に前記科目の<6>荷造運賃につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(水道光熱費等について・記録証第357号、特に前記科目の<7>水道光熱費につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(通信費等について・記録証第358号、特に前記科目の<9>通信費につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(損害保険料について・記録証第359号、特に前記科目の<11>損害保険料につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(修繕費について・記録証第360号、特に前記科目の<12>修繕費につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(消耗品費について・記録証第361号、特に前記科目の<13>消耗品費につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(福利厚生費等について・記録証第362号、特に前記科目の<14>福利厚生費につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(減価償却費等について・記録証第363号、特に前記科目の<15>減価償却費につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(給与等について・記録証第364号、特に前記科目の<16>給料賃金につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(支払報酬等について・記録証第365号、特に前記科目の<18>支払い報酬につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(外注費等について・記録証第366号、特に前記科目の<19>外注費につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(雑費について・記録証第367号、特に前記科目の21雑費につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(借入金について・記録証第377号、特に前記科目の<17>借入金利子割引料につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(旅費交通費について・記録証第390号、特に前記科目の<8>旅費交通費につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(接待交差費について・記録証第391号、特に前記科目の<10>接待交際費につき)
一 収税官吏作成の査察官調査書(支払手数料について・記録証第392号、特に前記科目の<20>支払手数料につき)
判示第一の事実につき
一 中川税務署長作成の証明書(昭和六三年分確定申告)
判示第二の事実につき
一 中川税務署長作成の証明書(平成元年分確定申告)
判示第三の事実につき
一 中川税務署長作成の証明書(平成二年分確定申告)
(法令の適用)
被告人の判示第一ないし第三の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同法二三八条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑につき同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び罰金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一七〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
(量刑の事情)
本件は、昭和四七年ころ以降個人で鉄工業を営み、その後、保安器材製造・販売、鋼材加工・販売等事業を拡大して仕事をしていた被告人が、昭和五九年に三井工業の名称で営んでいた事業の所得に関して税務署の調査があり、所得金額六〇〇万円で修正申告したことがあったため、以後も同金額で所得税の確定申告をしておこうと考えて、昭和六三年から平成二年までの所得税に関し、適宜の過少な金額である六〇〇万円を所得金額として計上して虚偽過少の確定申告をし、三年間に六五九六万円余の所得税をほ脱していたという事案である。
そのほ脱税額は高額であるが、ほ脱税率をみても、三年間の平均で約九八パーセントの高率であり、結果としては悪質な脱税である。
そして、被告人は、その動機として、現金取引をする方が事業をする上で有利であるため現金を留保しておく必要があったことや、事業拡張のためとか、困ったときのためにも現金を残しておきたかったことなどを述べており、被告人の生い立ちや事業内容などからその動機については理解できる部分がないわけではないが、脱税の動機として斟酌すべきものがあるとは言えないし、被告人自ら本件以前の数年前から同様の行為をしていたと述べており、本件は常習的な犯行であると考えられるのであって、以上の事情を考えると被告人の刑事責任には重いものがあると言わざるを得ない。
しかし、被告人は、本件起訴に係る三年分の所得税について、修正申告の上本税、重加算税、延滞税等必要な納税をしていること、本件脱税の方法は、帳簿の改ざん、虚偽の証拠の作出等の事前の積極的な所得秘匿工作を伴うものではなく、確定申告に当たり適宜の過少な所得金額を計上して虚偽過少の申告をしたという単純なもので、納税について余りにも無関心な点において非難されるべきものではあるが、とりわけ悪質なものではないこと、被告人は国税局の査察調査を受けた後、捜査、公判を通じて事実を認め、反省の態度を示していること、被告人は、平成三年に三井工業株式会社等の会社を設立し、従来の事業を法人組織により行うこととし、経理面についても、税理士の指導の下に今後は適正な納税を心がけることを誓っていることなど斟酌すべき事情もあるので、これらを勘案して被告人に対し、主文のとおりの懲役刑と罰金刑とを科することとするが、懲役刑についてはその執行を猶予することとする。
(弁護人 中村貴之)
(求刑 懲役一年及び罰金二〇〇〇万円)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 石山容示)
別紙一
修正損益計算書
<省略>
別紙二
脱税額計算書
<省略>
税額の計算
<省略>
別紙三
修正損益計算書
<省略>
別紙四
脱税額計算書
<省略>
税額の計算
<省略>
別紙五
修正損益計算書
<省略>
別紙六
脱税額計算書
<省略>
税額の計算
<省略>